「価値がある」というのはどのような状態を指すのか、案外説明しにくいものです。
- 人は受け取る価値が、支払う費用(時間や心理的なコスト含む)よりも大きいときにものを買う。
- 人はジョブを解決するためにものを買う。
- 人は価値、費用、ジョブについて意識せずに判断することも多い。
という3つの条件を整理すると、何かが「価値がある」と言われる場合は、その何かが意識的、無意識的含め「ジョブの解決を手助けする度合い」によって判断される、ということになります。つまり、何かが人々の仕事や課題をより効果的に解決する手助けをしてくれるほど、「価値がある」と評価されると言えそうです。
例としてペットボトルの水を考えてみましょう。同じボトルが場所によってさまざまな価格で売られているのを見たことがあると思います。
スーパーやコンビニで販売しているペットボトルの水を見ると、500mLと水と1Lの水の値段はあまり変わりません。量は2倍ですが、価格が2倍ということはありません。つまり量は倍でも価値は倍ではないのです。
同じ水が砂漠のど真ん中で発売されていたらどうでしょうか?その同じペットボトルは巨大な価値を持ちます。なぜなら、その水は「死にたくない」というとてつもなく切実なジョブを解決する手段だからです。水の在庫もなく死にかけている人なら、(死にたくなければ)持っている限りのお金を出すに違いありません。そして、1人ではなく2人の命を救える1Lの水は2倍の価格で売られることでしょう。
都会のスーパーマーケットで大量に安売りしているペットボトルはそこまで切実なジョブに応えていません。「食事中に喉を潤したい」というジョブには、ワインやジュース、お茶など他の手段が沢山存在しますし、「野菜をもっと安心な水で洗いたい」という感情的なジョブには浄水器という選択肢があるからです。
いやいや、水の量が2倍になっても、ペットボトルのコストや販売コストが抑えられるから価格が2倍じゃないんだ、という反論もあるでしょう。量が2倍でも、コストは2倍にならないのは確かですが、だからといって、消費者が価格の妥当性を感じなければ取引は成立しません。コストはあくまでも売り手の都合です。
同じく、外食店の分量も価値判断がジョブによって分かれます。
「ガッツリ食べたい」という消費者には大盛りのご飯が価値になりますが、「食品ロスを減らしたい」あるいは「減量したい」消費者にとっては、反対にご飯の量が少ないことが価値になります。
「おもてなし」も同様です。時と場合、つまり顧客のジョブにマッチしない「おもてなし」は、顧客によっては不要だったり、むしろ煩わしかったり、ということもあります。
量に対して価値を考えるのがこうしてわかりやすいのは、「価値」も大小ある量的な概念だからです。
ジョブが生きるか死ぬかほど強く、重要なものであれば、手助けできれば非常に大きな価値になります。しかし、手助けの度合いが低ければ、さほど大きな価値とはなりません。つまり、顧客にとっての価値というのは(顧客価値)以下の式で表現できます。
(顧客)価値 = ジョブの強さ × 解決を手助けする度合い
砂漠で水を売るのは、大きな顧客価値を生み出す一方で、あまりこのような事業者はいません。
それは、砂漠に水も持たずに紛れ込むような人は滅多にいないからです。したがって、砂漠で水を売るビジネスチャンスは非常に小さいものだと言えます。
砂漠はイメージが湧かないかもしれませんが、富士山の山頂ではどうでしょうか?登山客が年間20万人以上訪れると言いますが、皆、水を求めています。大量の水を担いで運ぶのは大変なうえ、登山は喉が渇くからです。そして、その水の値段は山頂に近づけば近づくほど上がっていくのです。実際、8合目では山麓の実に8倍の値段でペットボトルの水は売られています。しかも、年間20万人もの登山客が来ます。これは大きなビジネスチャンスなので、業者もわざわざ運び甲斐があると言えるでしょう。
人数が多いジョブや、何度も発生するジョブは、大きな機会価値があります。
(機会)価値 = ジョブの発生頻度 × ジョブの強さ × 解決を手助けできそうな度合い
スマートフォンで解決する“ジョブ”、一つ一つはそれほど重要なものではなかったりします。買い物のメモ、出先でのメールチェック、SNSで友人のチェック、暇つぶしで動画、食事の写真を撮る… でも、頻度が高いものばかりです。
このように、頻度が高いものも、ジョブは弱いものの、積み上がると大きな価値になるのです。
このように、価値の見極め方はとても重要です。「顧客価値」の高いアイデアのなかでも「機会価値」の高いものを選ぶことが大きく成長する事業のヒントとなるはずです。